能ある狼は牙を隠す
公園での会話はびっくりしたけれど、狼谷くんは女の子の扱いに慣れているし、揶揄われたのかもしれない。
現に、彼の周りには毎日女の子が絶えないし、さっきだって何事もなかったかのように挨拶されたわけだし。
狼谷くんの日常は変わらない。私も然り、だ。
元々立っているラインが違うと思う。大袈裟に言ってしまうと、住む世界が違う。
だから私たちは、平行線というまで険悪ではないけれど、ねじれの位置のように、ずっと交わることはないんだと思う。
「あ! みんな揃ったねー! 今日は頑張ろ!」
体育館に着いて早々、九栗さんが私たちに手を振って快活に笑った。
「私たちの試合は三番目だから、ちょっとだけウォーミングアップしよっか」
彼女の言葉に頷いて、軽く体を動かしてから周囲を見回す。
朝一の試合がこれから始まるようだ。人が集まってきて、喧騒が大きくなっていく。
「あ、男子のバスケって一番最初か! 応援しなきゃだね!」
「どうりで女子が多いわけだわ……」