能ある狼は牙を隠す


恐らく親切心からの提案なんだろうけれど、それは避けたい。
咄嗟に反駁すると、坂井くんは眉根を寄せた。


「どうして? こんなに酷いこと言われたのに」

「それは、それかもしれないけど……」


今起こったことを話す、それ即ち「信用していない」と通告するようなものだ。
私は信じたい。というか、信じている。

それに加えて、玄くんは最近忙しそうだ。
バイトを始めたというのも一つ。そしてもう一つは、勉強に精を出している。国公立、それも偏差値上位の大学を第一志望に置いているらしい。なるべく精神的にも、無駄な懸念事項や負担をかけたくはない。


「お願い。玄くんには言わないで下さい……」


手を合わせて頼み込む。
坂井くんは「そこまで言うなら……まあ、いいんだけど」と頭を掻いた。


「あんまり抱え込みすぎるのも良くないと思うよ。俺で良かったら相談くらいは乗るから」

「うん……」


私の返事にひとまず納得したのか、帰ろうか、と彼は苦笑する。


「えっ、坂井くん、バス一緒だったの?」

「そうだよ。逆に今まで気付かなかったの?」

「全然知らなかった……」

「はは。まあ白さん、いつも西本さんと一緒だからね」


一人で帰っていなくて良かったと思う。
沈んでいた気持ちはいつの間にか消え失せて、温厚な彼の声に相槌を打ちながら、私はバスに揺られることにした。

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