能ある狼は牙を隠す



「へーえ。どうりで最近あんまり一緒にいないなと思ったわ」


教科書を鞄にしまいながら、カナちゃんが視線をこちらに寄越す。
六時間目の授業が終わり、教室内は騒がしかった。


「ま、そうでもなきゃあり得ないよね。あんなにベッタベタだった狼谷くんが急に淡泊になるなんて」


彼女が言っているのは、最近の玄くんの様子についてだ。

彼が勤めているのは街中のカフェレストランだそうで、短期バイトということもあってか、かなり過密なスケジュールになっているようだった。休み時間は机に突っ伏して寝ているのをよく見かけるし、毎晩している電話の声もすごく眠そうで。

久しぶりに出掛けよう、と誘われた先週も、彼の疲労や体の具合が心配で断ってしまった。俺は大丈夫だから、と最後まで粘られたけれど、やっぱりちゃんと休んで欲しい。


「短期っていつまでなの?」

「来月の中旬までって言ってたよ」

「ふーん……健気だねえ、狼谷くんも」


健気とは。首を捻る私に、カナちゃんは「何でもないよ」と肩をすくめた。


「じゃあ今日は久しぶりにどっか寄ってく?」

「えっ、行きたい行きたい!」


魅力的な提案に食いつくと同時、森先生が前方のドアから入ってくる。

聞いているようで誰も聞いていないホームルームが終わり、お互いに掃除当番が割り当たっていた私たちは「じゃあ後で」と手を振った。

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