能ある狼は牙を隠す
*
「へーえ。どうりで最近あんまり一緒にいないなと思ったわ」
教科書を鞄にしまいながら、カナちゃんが視線をこちらに寄越す。
六時間目の授業が終わり、教室内は騒がしかった。
「ま、そうでもなきゃあり得ないよね。あんなにベッタベタだった狼谷くんが急に淡泊になるなんて」
彼女が言っているのは、最近の玄くんの様子についてだ。
彼が勤めているのは街中のカフェレストランだそうで、短期バイトということもあってか、かなり過密なスケジュールになっているようだった。休み時間は机に突っ伏して寝ているのをよく見かけるし、毎晩している電話の声もすごく眠そうで。
久しぶりに出掛けよう、と誘われた先週も、彼の疲労や体の具合が心配で断ってしまった。俺は大丈夫だから、と最後まで粘られたけれど、やっぱりちゃんと休んで欲しい。
「短期っていつまでなの?」
「来月の中旬までって言ってたよ」
「ふーん……健気だねえ、狼谷くんも」
健気とは。首を捻る私に、カナちゃんは「何でもないよ」と肩をすくめた。
「じゃあ今日は久しぶりにどっか寄ってく?」
「えっ、行きたい行きたい!」
魅力的な提案に食いつくと同時、森先生が前方のドアから入ってくる。
聞いているようで誰も聞いていないホームルームが終わり、お互いに掃除当番が割り当たっていた私たちは「じゃあ後で」と手を振った。
「へーえ。どうりで最近あんまり一緒にいないなと思ったわ」
教科書を鞄にしまいながら、カナちゃんが視線をこちらに寄越す。
六時間目の授業が終わり、教室内は騒がしかった。
「ま、そうでもなきゃあり得ないよね。あんなにベッタベタだった狼谷くんが急に淡泊になるなんて」
彼女が言っているのは、最近の玄くんの様子についてだ。
彼が勤めているのは街中のカフェレストランだそうで、短期バイトということもあってか、かなり過密なスケジュールになっているようだった。休み時間は机に突っ伏して寝ているのをよく見かけるし、毎晩している電話の声もすごく眠そうで。
久しぶりに出掛けよう、と誘われた先週も、彼の疲労や体の具合が心配で断ってしまった。俺は大丈夫だから、と最後まで粘られたけれど、やっぱりちゃんと休んで欲しい。
「短期っていつまでなの?」
「来月の中旬までって言ってたよ」
「ふーん……健気だねえ、狼谷くんも」
健気とは。首を捻る私に、カナちゃんは「何でもないよ」と肩をすくめた。
「じゃあ今日は久しぶりにどっか寄ってく?」
「えっ、行きたい行きたい!」
魅力的な提案に食いつくと同時、森先生が前方のドアから入ってくる。
聞いているようで誰も聞いていないホームルームが終わり、お互いに掃除当番が割り当たっていた私たちは「じゃあ後で」と手を振った。