能ある狼は牙を隠す


坂井くんとはバスが一緒だし、今から帰るとなるとどっちみち同じ便に乗ることになるだろう。断るのも気まずい。

共通の話題はあまりないし、会話は弾まないと思っていたけれど、結論から言うと坂井くんとの帰り道は苦ではなかった。彼は誰とでもすんなり仲良くなれるというか、きっと話をするのが上手なんだと思う。


「……ここだけの話なんだけどさ」


少し沈黙が落ち、そろそろ私からも話題を提供しなければ、と落ち着きなく窓の外を眺めていた時だった。
坂井くんが神妙な顔つきで喋り出す。


「急用できたって白さんに伝えておいてくれって言われたんだけど……西本さんがそのあと、津山と二人で帰っていくとこ見ちゃったんだよね」

「……え?」

「白さん、西本さんと今日このあと約束してたんでしょ? 先約あるのに、そっち優先しちゃうんだなあと思って、ちょっと意外だったっていうか……」


カナちゃんが、津山くんと?
その二人が一緒にいるのは特に不思議ではないし、全然構わないんだけれど。

でも、どうして「急用」?


「そ、そうなんだ……何か大事な予定だったのかなあ」

「うーん、まあ俺もそう思いたいけど……でも、ちょっと、なんていうか……白さんの前でこんなこと言いたくないけど、自分勝手かな? って……」

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