能ある狼は牙を隠す
確かに、節々で感じてはいた。
ぎこちないし乗り気じゃなかったし、自分は彼の好みには該当しなかったのかな、なんて。そんな呑気な方向に思考を巡らせていたけれど。
噂は、本当にただの噂だったってわけだ。
「いやー、それはごめんね? 断られなかったし、てっきりそういうことなのかと」
「どういうことだよ……」
自己完結した私に、彼は不服そうに眉根を寄せる。
そっか。今までの人と違うって、もしかしたらこの人なら分かってくれるかもって、そう思ったけど。
この人は根本的に違ったみたいだ。こっち側に来るべきじゃない人。
「……うん、ごめん。もう今後は関わらないようにするから」
あ、したくなったら呼んでくれていいよ?
冗談めかしてそう付け足す。それでも彼の表情は険しいままで、少し気まずかった。
「何で?」
「え?」
「関わらないって、何で?」
純粋無垢な質問。空の青さを問われているような、そんな感覚。
「いや、俺は少なくとも前と変わらずにとか、無理だなって。てかこんなことしておいて今更じゃね?」
初めてって、そう。確かに、私もそんな風に思った。
でも違った。想像よりもずっと呆気なくて、期待なんてしちゃだめだと学んだ。
「……期待、しすぎだよ」