能ある狼は牙を隠す
男の子のくせに。
やめてよ、勘違いしちゃうから。君だって、穢れていったらいつか分かるよ。こんなろくでもない私、通過点だって、過ぎ去って行くのが正解だって。
「別に。期待なんてしねえよ」
上半身を起こした彼が、背を向けて吐き捨てる。
それ、だ。その背中。
遠巻きに見ていて、この人を構成する中にとんでもない寂しさがあるって、そう確信した。だからこそ手を伸ばしたくなって。
いま目の前の背中は、「寂しい」と。訴えかけてくる。
「……うん。私も」
期待なんて、しない。
やっぱり君は似ている。引き摺り込みたくないって思うのに、こっちに来て欲しいって、強く願っている自分がいた。
結局、関わらずにはいられないのは私だった。
玄は決して手放しに優しいとは評価しがたい人だったけれど、私が夜中に電話を掛けても怒らずに話を聞いてくれたし、泣きついて愚痴を零しても、黙って隣にいてくれた。
「ねえ、玄。私だけ? 私だけ、だよね?」
行為中に取った言質なんて、意味はない。それを痛いほど分かっているはずなのに、確かめたくて仕方なかった。
「……うん」
日に日に彼が遠くなっていくように思えて、それでも玄は私を突っぱねなかった。
他の子としていても、笑っていても。私が泣いて電話を掛ければ来てくれたから、きっと私を優先してくれるんだって。