能ある狼は牙を隠す



「玄と別れてくれない?」


端的に要望を突き付ければ、丸い瞳が僅かに揺れた。

いま玄と付き合ってるっていう、女の子。
玄は今まで明確な彼女をつくってはこなかったけれど、女側が勝手に「彼女だ」と声高に言っていたのは何度もある。


「あれ、聞こえなかったかな。玄と、別れて欲しいんだけど」


今回も例外ではなく、ただ噂が大きくなってしまって、取り消すにも取り消せなくなったんだろう。
玄は優しい。それに、結構面倒くさがりだ。成り行き任せに、味見のつもりで遊んでいるのかもしれない。


「えっと、無理です」


私を見据えて固い声を出した彼女に、ふうん、と内心鼻で笑ってしまう。

いかにも真面目ちゃん。噂に聞いた通り、気弱そうで女の子らしくて、玄が一番手を出さなさそうなタイプ。
可哀想に。自分が本気で相手にされていると思っているんだろう。


「……玄くんのこと、その……好き、なんですか?」

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