能ある狼は牙を隠す
思わず声を上げて笑ってしまいそうになった。
好きなんですか、って。そんな浅い感情、聞いてどうするんだろう。
慮るような、気遣うような口調。あくまでも自分が上の立場にいると思い込んでいるようで、癪に障る。
「うん、好きだよ。好きっていうか、玄じゃないとだめなの」
これで満足?
こういうタイプはきっと、「別に好きじゃない」と言った時点で怒りだす可能性があるからめんどくさい。
好きとか、嫌いとか。そういう問題じゃなし、そういう次元じゃないよ。
「玄くんの気持ちを決めるのは玄くん本人だと思います。それに、私は彼と好きで付き合っているので……別れて欲しいと言われても正直嫌ですし、そういうこと言われるのは……ちょっと、気分良くないです」
途切れ途切れに、いかにも頑張りました、といった様子で言い切った彼女に、思い切り悪態をつきたくなった。
こんな短期間で玄の何を分かったつもり? 玄を自分のモノ扱い? 自惚れるのも大概にしろ、と。
「ないでしょ。玄はそんな感じじゃないし。まあ最終的に戻ってきてくれたらいいかなって思ってたから、二番目でも良かったんだけど……あなたと付き合いだしてから玄、おかしくなった」