能ある狼は牙を隠す
息が詰まった。
そこにあったのは、ただひたすらな侮蔑と嫌悪で。
『別に。期待なんてしねえよ』
あの時と変わらない口調で、あの時よりも残酷に私を刺すアンパイヤ。
「玄、」
玄。玄。あなたも、私を捨てるの?
やだ。いやだ。行かないで。居場所を失いたくない。
「じゃあ……じゃあ、証明、してよ」
自分の声は馬鹿みたいに震えていた。静まり返る空気が薄気味悪くて、必死に言い募る。
「本当にあの子が大事なら、指一本、触れないで……!」
証明して欲しいだなんて、本当はこれっぽっちも思っていない。
ただ、私は。彼を独占したくて、誰のものにもなって欲しくなくて。これはきっと、純粋な我儘と欲だった。
「いいよ」
「え――」
「その代わり、分かったらお前はちゃんと身ぃ引いてくれんだろうな?」
確固たる視線。私は何かを、決定的に踏み外したんだと悟った。
「答えろ。誓えよ。俺が証明して見せたらその時は、線引きできんだよな?」
呆然と黙り込む私に、彼はスマホを取り出すと、催促するように告げる。
「お前、上手くつけてきたつもりだろうけど、ばればれなんだよ。そんなにパトカー乗りたいんなら、乗せてやらなくもないけど」