能ある狼は牙を隠す
彼の指が動く。一、一、〇――
「わ、分かった! 分かったから……!」
「何が」
「ちゃんとする、もう変なことしない……」
物々しい視線は、留まることを知らずに。
「時効は」
「え……?」
「いつまでって、聞いてんだよ」
いつまで。ああ、そうか。
永遠じゃない。終わりがあるんだ。玄はもう、とっくのとうに――。
「……クリスマス、まで」
吐き出した息が白く濁る。ぐんと下がった気温も頬を撫でる風も、全部が冷たくて痛い。
惨めだ。今の私は、物凄く、惨めだ。
期待なんてしない、そう決めたのは誰? 分かっていたくせに、もしかしたらなんて、結局期待して。
誰かに寄りかかるのはもうやめたい。絶望の淵を歩いている方が、ああ生きてたんだって、まだそう思える。
分かってるよ。やめたいよ。こんな自分、私が一番大嫌いだ。
「玄。その日、少しでいいから……会いたい。本当に少し。それで、最後にするから……」
顔は見ることができなかった。どんな負の感情を向けられているのか、確かめるのが怖くて。
返事はない。
俯いた視界の中、彼の足が離れていく様だけが強く濃く、焼き付いた。