能ある狼は牙を隠す
まさか、と、もしかして、が心の中でせめぎ合う。
心臓がどくどくと激しく音を立てているのが、自分でも分かった。
立ち上がってドアに近づく。
ドアノブを握り、回してみた。――開かない。
「え、……そんな、」
馬鹿な。
そうは思っても、実際目の前のドアは開かないのだからどうしようもない。さっきの物音は、鍵がかけられた音だろう。
ともかく、森先生が来るまで待つとして、再び椅子に座り込む。
窓から雲の形を観察したり、大して見る気もない冊子を漁ったり。はたまた今日出された課題に手を付けたり。
数式にうんうん唸り、ふと窓の外に視線を投げると、ほんのり暗くなってきていた。時計を確認する。
「えっ、もう十七時!?」
森先生、いくら何でも遅すぎじゃない? 忘れてるとか?
そこまで考えてから、ドアの方へゆっくりと顔を向ける。先生が来てくれないと私、帰れないんだけどなあ……。
結論から述べると、かなり苦戦した課題を全て片付けてもなお、先生は現れなかった。
部活のない生徒はとっくのとうに下校している時間だし、ここの前の廊下を通る人もほとんどいないだろう。
うん、森先生、絶対忘れてる。自分から呼んでおいて、なんて有り様だ。
「連絡……」