能ある狼は牙を隠す
ドアの方に駆け寄って、その向こうへ声を張り上げた。ドアノブを何度も回したり、揺らしたりしながら、叩いて叫び続ける。
「すみません! 誰かいませんか……!?」
どうしよう。かなり、いや、物凄くまずい。
しばらくドアを叩きながら声を上げていたけれど、自分の声が途切れたタイミングで広がる静寂が虚しくて、大きすぎて。
本当に本当に、これ、どうしよう。
警備の人が見回りに来てくれるかもしれないけれど、それは部活が完全に終わって学校を閉める前だから、もっと待たなきゃいけないし。そこで気付いてもらえなかったら、朝までこのままだ。
死ぬわけじゃない、けど。嫌すぎる。いくらホラー耐性があるとはいえ、夜の学校なんて不気味でたまらない。
「もうっ、何で……」
最近色々と、ついてなさすぎる。ただでさえ一人でいると余計なことを考えてしまうのに、こんな不穏な状況で一人だなんて、泣きたくなってきた。
「もうう、やだあ……」
その場に座り込んで、膝に顔を埋める。
情けないとは思いながらも、べそべそと半泣きで鼻を啜っていた時だった。
「誰か中にいますかー?」