能ある狼は牙を隠す
ドア越しに聞こえた、よく通る声。
反射的に立ち上がって、私は勢いのまま口を開いた。
「います! 鍵かけられて、出れなくて……! 開けてもらってもいいですか!」
「……白さん? ちょっと待ってて、鍵借りてくる!」
その声は。坂井くん、だ。
足音が遠ざかって、少し経ってから、ぱたぱたと戻ってくる。
かち。随分前に聞いたのと同じ音が鳴り響いて、ドアが開いた。
「白さん、どうしてここに――」
「坂井くんっ、ありがとう……!」
彼の姿が見えた瞬間、感極まってその袖を掴んでしまった。
坂井くんは目を見開いて固まった後、「どういたしまして」と優しく笑う。
我に返ってそろそろと手を離してから、再度頭を下げた。
「本っ当に助かりました! 坂井くんが来てくれなかったら、どうなってたことか……」
「ああ、いや、全然。それにしても、どうして閉じ込められてたの?」
かくかくしかじか。森先生への恨み辛みがこもった話をし終えると、彼が首を傾げる。
「森先生なら、今日は面談じゃない? さっき終わったところだと思うよ」
「あ、」