能ある狼は牙を隠す


うん、確かに。そうだ。
森先生は毎日放課後に面談をしている。それなのにわざわざ資料室に呼び出すなんて、どうしたんだろうとちょっと思ったんだ。今日面談する予定の人の前に、少しだけ私との時間をつくってくれたのかなと、そこまで深く考えなかったけれど。


「俺もさっき学級委員の集会終わったとこで……教室の前通ったけど、電気ついてたし、面談してたんだと思う」

「そう、だよね……」

「先生に言われたの? ここに来てって」


うん、と頷いてから、言葉に詰まる。


「……朱南ちゃんに、森先生からの伝言って、言われて」


直接先生から言われたわけでは、ない。
いやでも、先生からの伝言なんだから、同じようなものだ。

坂井くんが黙り込む。沈黙が落ちて数秒、彼は小さく零した。


「九栗が……って、ことは、ないよね」

「え?」

「いや……こんなの考えたくないし、そうじゃないとは思うけど。でも、九栗からの伝言だったんでしょ?」


それは、つまり。


「九栗が白さんを閉じ込めたっていう可能性は、捨てきれないよね……」

「そんな……! 朱南ちゃんがそんなことするわけないよ!」

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