能ある狼は牙を隠す
きっとこの前の件もあったから、気を遣って聞いてくれたんだろう。それなのに、今は一番考えたくないことだった。
抑えなきゃと思うのに、じわじわと目頭が熱くなっていく。
「……白さん?」
どうしてこんなに悩んでいるんだろう。また彼の気持ちが見えない。
やっと、ようやく捕まえたと思ったのに。指の間からたちまちすり抜けていって、いま彼が何を考えているのか、私とどう向き合っているのか、全く読めない。
「も、……もう、玄くんの気持ちが、全然、分からない……」
何で? 私、何かした? 気に障るようなことしたの?
こないだまであんなに幸せで温かかったのに、今の彼はすごく辛そうだ。何かをずっと我慢しているみたいに。そのくせ、私には絶対共有してくれない。
言ったじゃん。私、ちゃんと言ったよね。
辛いことも、悲しいことも、私にも教えてって。ちゃんと二人で頑張ろうって、幸せになろうって、言ったよね。
また一人で抱えてる。
何をそんなに堪えてるの。私には言えないこと? 言いたくないこと? だったらどうして、いかにも大切にしてますって顔で、私を見るの。
もう私、これ以上どうやって歩み寄ればいいか、分からないんだよ。
「私が触ろうとしても避けられるし、一緒にいても楽しくなさそうだし……」