能ある狼は牙を隠す
数秒見ただけでも圧倒された、雑言の数々。
きっと意味を理解できていなかったにせよ、直感で分かったはずだ。
明確な悪意を持った、贈り物だったと。
「……はは、もう……今日ほんと、ついてないなあ……」
誰かが間違って入れたのかもしれない。それもそれでどうなのかって話だけれど。
ああ、それかあの人かな。此花さん。疑いたくないけれど、思い当たるのは彼女くらいだ。
でも、だって。そうじゃなきゃ、誰が入れたのって話で。
「白さん……」
坂井くんが困ってる。何か言わなきゃ。
「私……私、そんなに何か、したかなあ……」
恨み買うようなこと。憎まれるようなこと。
人一倍、気を遣って嫌われないように生きてきたのに。ずっとそうやって、誰からも嫌われずに過ごすことが私の取り柄だったのに。
自分が優柔不断なのは一番自分が分かっている。他人からの視線に過敏になって、感情を上手く吐露できないことも。
本当は雑用も委員会も勉強も、したくなんてないよ。頼まれても嫌って言えないのは、必要とされているみたいで安心するのと、嫌われるのが怖いから。ただそれだけ。
むかむかしても、いらいらしても、自分が我慢すれば円満に終わる。だからなるべく笑って受け流してきたのに。
「全部、意味なかったのかなあ……」