能ある狼は牙を隠す
床を睨んで感情を抑えていると、唐突に彼が言った。
え、と自分の喉から気の抜けた声が出て、その後に坂井くんが続ける。
「こんなに立て続けに、色々あるとさ……西本さんも、九栗も……あんなに白さんと仲良くしてたのに、」
「ち、違うよ、二人はそんなんじゃないって……思う……」
多分、色々と誤解やすれ違いがあったんだと思う。
きっとそうだ。そうじゃなきゃ、私は。
「……うん。もちろん、白さんの気持ちも分かる。でも……信じすぎちゃうと、白さん自身が危ないかもしれない」
「どう、いう」
「現にこうして危ない目に遭ってるわけだからね……残念ながら、偶然とも思えないし」
信じすぎるのが危ない? じゃあどうしたら。
みんなを疑いたくなんてない。そんなことをする人たちじゃないって、もちろん分かってる。
「大丈夫。俺は一応色々見ちゃった立場だし、話ならいくらでも聞けるし……白さんが悪くないのも、ちゃんと全部分かってる」
「坂井くん……」
彼は一歩こちらへ近づくと、弱々しく、労うように笑いかけた。
「俺は絶対に、味方だからね」