能ある狼は牙を隠す
*
がん、と物々しい音がした。
担任との面談を終え、階段を下ったところで、下駄箱に人影を見つける。
「――じゃあ泣かすわ」
ただならぬ空気。
壁に身を隠して様子を窺えば、そこには二人の女子生徒がいた。詰られている方には見覚えがある。
仲裁に入ろうか迷ったが、話を聞いている限りだとなかなかに際どい内容だ。第三者が介入して拗らせても困るので、ひとまず静観に徹することにした。
結果的に、どちらかが手を出すようなこともなく、言い合いで終わったようで。
一人立ち尽くす華奢な背中に、あまり気乗りはしないが声を掛けてみる。
「大丈夫?」
振り返った彼女の顔は強張っていて、酷く怯えていたのだろう。
最初こそ視線をさ迷わせながらどもっていたが、「ごめんね」とその唇が動いた。
表情や声色を努めて「いつも通り」にしようとしているのが伝わってくる。
こんな時にまで笑おうとしなくてもいいのに。歯痒さを感じて、ついつい口数が多くなってしまう。
「あはは、ありがとう……うん。でもまあ……こういうことも覚悟してなかったわけじゃないし」
彼女がそう言った瞬間、自分の中で何かが焼き切れたような気がした。
「こういうことって……浮気されるってこと?」
がん、と物々しい音がした。
担任との面談を終え、階段を下ったところで、下駄箱に人影を見つける。
「――じゃあ泣かすわ」
ただならぬ空気。
壁に身を隠して様子を窺えば、そこには二人の女子生徒がいた。詰られている方には見覚えがある。
仲裁に入ろうか迷ったが、話を聞いている限りだとなかなかに際どい内容だ。第三者が介入して拗らせても困るので、ひとまず静観に徹することにした。
結果的に、どちらかが手を出すようなこともなく、言い合いで終わったようで。
一人立ち尽くす華奢な背中に、あまり気乗りはしないが声を掛けてみる。
「大丈夫?」
振り返った彼女の顔は強張っていて、酷く怯えていたのだろう。
最初こそ視線をさ迷わせながらどもっていたが、「ごめんね」とその唇が動いた。
表情や声色を努めて「いつも通り」にしようとしているのが伝わってくる。
こんな時にまで笑おうとしなくてもいいのに。歯痒さを感じて、ついつい口数が多くなってしまう。
「あはは、ありがとう……うん。でもまあ……こういうことも覚悟してなかったわけじゃないし」
彼女がそう言った瞬間、自分の中で何かが焼き切れたような気がした。
「こういうことって……浮気されるってこと?」