能ある狼は牙を隠す
それはあまりにも不憫すぎやしないだろうか。
彼女が狼谷と付き合い始めたと知った時は正直かなり驚いたが、当人たちがそれでいいのなら別段気にすることでもない。
しかし、彼女はひたむきに狼谷を想っているというのに、狼谷がいい加減な態度では、あまりにも彼女が報われない。
「白さんはそれでいいの? 散々弄んでおいて捨てるとか、許せるの?」
我ながら、何をこんなに熱くなっているんだろうと他人事のように考える。
否、本当は薄々気付いていた。
あの夜、彼女に抱いてしまった熱情を。消すに消せなかった火種を。
でも、だからといって、どうすればいいというのか。
彼女には付き合っている人がいて、俺は誰がどう見てもただのクラスメート。
「……俺、いつも白さんが泣いてるとこばっかり見てるような気がする」
気のせい、なんだろうか。彼女の泣き顔が印象に強く残りすぎて、そう錯覚しているだけなのかもしれない。
だけれど、あの日からずっと、獰猛な獣が自分の中に居座ってしまったように、彼女の涙を探している。離れない。記憶から、脳内から、消えてくれない。
「あんまり抱え込みすぎるのも良くないと思うよ。俺で良かったら相談くらいは乗るから」
嗚呼、俺は一体いつからこんなに浅ましくなってしまったんだろう。