能ある狼は牙を隠す
私の声が、雑音の中を割っていった。
瞬間、狼谷くんはこちらを見て、それからすぐに視線を前に戻した。
彼の手からボールが放たれる。
飛んで、飛んで、――輪をくぐった。
「しゃ――――っ!」
誰ともなしに歓声が上がって、試合終了のホイッスルが鳴る。
「玄! まじナイッシュー!」
津山くんが狼谷くんの髪を掻き回しながら豪快に笑った。
狼谷くんは迷惑そうにそれを払い除けて、それから――
急に自分のしたことに実感がわいて、頬が火照った。
狼谷くんがこちらを向くのが分かったので、目が合う前に踵を返してその場を離れる。
「……羊があんなおっきい声出すの、初めて聞いた」
「うん……自分でもびっくりしてる……」
きょとーん、という効果音が正しいだろう。
目を見開いているカナちゃんに、私は俯いた。
「あはは、声出しばっちりだね。よし、私たちも張り切ってこー!」
九栗さんはそう言って、私の肩を軽く叩いた。