能ある狼は牙を隠す


訝しむように眉根を寄せた霧島は、その前に座る友人に話しかけられて、俺との会話をあっさり終わらせる。


「じゃあ今日は久しぶりにどっか寄ってく?」

「えっ、行きたい行きたい!」


無邪気で浮ついた声色だった。きっと眩しい笑顔を、前方の友人に向けているんだろう。

ああ、狡いな。西本さん、どこまで彼女を独占するの。少しくらい俺に分けてよ。
――そう、多分、魔が差した。


「津山」


ホームルームが終わった教室。早々と帰ろうとしていた彼を呼び止める。
津山は驚いたように立ち止まって、「何?」と首を傾げた。


「この後、帰らないで玄関で待っててほしいって。西本さんが」

「えっ?」


俺の言葉に、彼が柄にもなく頬を赤らめる。

他人の色恋沙汰に興味はない。が、クラス内の相関図のようなものは脳内で出来上がっている。
彼が西本さんを憎からず思っているのは、最近の言動からも比較的分かりやすく読み取れていた。


「えっ、わ、分かった。さんきゅ……」


扱いやすくて大変助かる。どういたしまして、と返して、俺は理科室に向かった。
西本さんとは同じ理科室掃除の当番が割り当たっていて、これを活かさない手はないと思ったのだ。


「西本さん」

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