能ある狼は牙を隠す


類は友を呼ぶ、というが、まさしくそうだろう。

白さんに伝言をお願いしたい、と頼むと、九栗は何の疑いもせず頷いた。
西本さんもそうだが、彼女の周りは人が良い。俺がこんな人間だなんて、つゆほども疑っていないのだから。

教室清掃の当番が当たっていた俺は、机を運ぶ際に、さり気なく白さんの机の中に彼女のスマホを滑り込ませた。
資料室の鍵は、「大学について色々調べたい」と言えば難なく借りられたし、思いのほか上手く事が運びすぎて怖くなったくらいだ。

ただ一つ想定外だったのは、彼女が意外にも冷静沈着だったこと。しばらく大人しかったから、寝てしまったのかと思った。


「もうう、やだあ……」


その声が聞こえた時、自分の中で急速に何かが燃えていくのを感じた。
彼女を泣かせたのは他でもない、俺だ。俺がしたことで彼女が泣いている。

罪悪感を抱くのが正解だったんだろうか。もう俺は、今このドアを開けるのが楽しみで楽しみで仕方ない。
何度も脳内で繰り返し思い返したあの泣き顔を、もう一度見られる。

興奮して、上手く鍵を開けられなかった。
手際の悪さに自分でもじれったくなって、ようやくそれを開けた途端。


「白さん、どうしてここに――」

「坂井くんっ、ありがとう……!」

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