能ある狼は牙を隠す

堅忍不抜

イベントまでのカウントダウン。それは無条件に心躍るもの、胸が高鳴るものだと、今まで信じて疑わなかった。
イベントじゃなくたって、彼に会う前の日はいつだって。私はどきどきして、なかなか眠れなくて、暗闇の中で何度も瞬きをするんだ。


「……行ってきます」


でも、今日は違う。

真冬の空気は容赦なく私を刺す。
二か月くらい前に買った淡いピンクのコートは、こんな気持ちで着る予定じゃなかった。彼の隣を歩くのに、少しでも見劣りしないように。あわよくば、可愛いね、なんて言って欲しくて、私はそれを買ったはずだったのに。

悲しい――そんな感情は、とっくに置いてきた。今はもう、ひたすらに虚しい。


『ちゃんと、それまでにけじめつけるから』


そのけじめの日が、やって来た。
クリスマスだなんてみんな言うけれど、そんなの知らない。どうして今日じゃなきゃいけなかったの、と彼を猛烈に責めたくて、でもそう思うことすら辛くてやめた。

はあ、と息を吐く。ほわりと白い煙が宙を舞って、すぐに消えた。

十二月の夕方は夜と同義で、空が暗く私を覆う。
重たい足取りで向かうのは、彼との待ち合わせ場所。いつしかそこが彼と私の間ではデートの開始地点としてお決まりになって、そんな思い出を作らないでよって思う。これから通る度に思い出してしまうから。