能ある狼は牙を隠す


車両の中は、思ったよりも空いていた。
窓側の席に座った私の隣、坂井くんが腰を下ろす。ほどなくして走り出した列車は振動を伝えてきて、最初の駅を通過するまでお互い無言のままだった。


「俺さ、白さんが好きなんだよね」

「えっ」

「ごめん、突然。でも俺、この一時間で消化しなきゃいけないから、聞いて」


情報量が多すぎて戸惑う。
彼の言葉にあまり実感がわかないまま、ただ耳を傾けることになった。


「まず謝らなきゃいけないんだけど、白さんを閉じ込めたの、俺なんだ」


息が詰まった。どうして、なんて安っぽい質問は喉奥にとどめて、私は押し黙る。


「九栗を利用してそうしたのは俺。西本さんと津山を二人で帰らせたのも、白さんの靴にあの紙切れ入れたのも、ついでにスマホを机の中に入れたのも全部俺。本当に、ごめん」


ごめん、と。もう一度彼の唇が動いて、詫び言を告げた。
腰から折って頭を下げていた坂井くんが、姿勢を戻して目を伏せる。


「……自分でも、どうかしてたと思う。傷つけてるのに、頼ってもらえるのが嬉しくて、……俺だけを見て、欲しくて」

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