能ある狼は牙を隠す


自分自身に言い聞かせるように、坂井くんが肯定する。

それからまた、私たちは黙り込んだ。

流れていく窓の外の景色をぼんやり眺めて、一体このまま私はどうするんだろう、と性懲りもなく考えた。
そもそも終着駅は知っているけれど、どうしてそこに向かっているのか分からない。隣にいるのが坂井くんなのも納得がいかない。本当なら私は今頃玄くんと会っていたはずで、幸せかどうかはさておき、好きな人と過ごすことはできていたんだ。


『あいつから許可はもらってるから、大丈夫』


もう会ってもくれないのかな。最後くらい、私の嫌なところとか気に食わないところ、直接言ってくれても良かったのに。
やっぱり玄くんはいつも、最初から最後までずっと、私に「好き」としか言わなかった。

終わりなの? 本当にこれで終わり? それともこれが玄くんの答え?


「ずるいなあ……」


ずるいよ、玄くんは。嫌いになることすら許してくれないんだね。
私、こんなに幸せな時間、生まれて初めてだったよ。毎日起きてから寝るまで、玄くんが大切で大切で仕方なかったよ。おはようもおやすみも、こんなに素敵な挨拶だったんだなって、そう思ったんだ。

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