能ある狼は牙を隠す
SS 粉骨砕身 ―Gen Kamiya―
暗くなってきた空の下、インターホンを押す。
数十秒待っても反応がないので、もう一度押してみた。ドアは開かない。ため息をつく。
「おい、いるんだろ。お前が会いたいっつったんだろうが」
アパートの一室、さほど分厚くもない簡素な造りのドア。
その向こうからどたどたと慌ただしい物音が聞こえて、勢い良く開いた。
「玄? 嘘、ほんとに来てくれたの……?」
目を見開く奈々に、意図せず眉根が寄る。
「だから、お前がそう言った」
「玄……!」
玄関から飛び出してきた彼女を咄嗟に避けた。
抱き着こうとでもしていたのか、細い腕が手持ち無沙汰に揺れる。
「……何で? そういうことじゃないの……? 私を選んでくれたんでしょう?」
「違う」
「じゃあ何で!?」
子供のように縋る奈々に、俺は淡々と告げた。
「お前との約束は守った。俺はちゃんと証明した。だからお前も割り切って」
クリスマスだなんて、よくもクソみたいな期限を設けてくれたものだ。元々今日のために準備も何もかもしていたというのに、本末転倒である。
そうはいっても、彼女にとって――奈々にとって、この日はクリスマスでも何でもないのだから仕方ない。
「もう来年からは、一緒にいてやれない」