能ある狼は牙を隠す
諦めろ。まあ確かに、そういうことなのかもしれない。
このまま野放しにしておくほど俺は心が広くないし、普通に嫉妬もしている。
だって、もうどうあがいても手放してやれない。俺は多分、死ぬまで彼女への想いに囚われるのだろう。
彼女だってそれを許容してくれているから、尚更手放す理由はない。
そうなれば、他の男がいくら羊ちゃんを好きだと言ったところで、実る余地はないわけで。
牽制、束縛とも違う。事実だ。俺はただ単に、事実を述べている。
「さっき聞いてたろ。十七時に駅前。そこからの一時間やるから、全部終わらして」
「……意味が分からない」
「じゃあいい。今すぐここでその気持ち、捨てろ」
容赦なく言い放つ。
恋というものを知った俺は、無慈悲ではないつもりだ。そう簡単に割り切ることができない気持ち、だからこそせめて本人にぶつけて消化しろと言っている。
「快速」
「え?」
「そこから快速乗って、終点までが大体一時間だから。羊ちゃんのこと、送ってくんね?」