能ある狼は牙を隠す
純真な瞳が俺を捉える。
みるみるうちに目を潤ませて眉尻を下げた彼女に、酷く胸が痛んだ。
「羊ちゃん」
ああ、俺は本当にどうしようもない人間だね。また羊ちゃんを不安にさせて、泣かせて、どこまでも不甲斐ない。
それでも俺は、どうしたって願ってしまうんだ。
君の瞳に映りたい。君の隣を歩きたい。たった一人、君の手を取る男でいたいと。
「俺、色々と彼氏失格だけど……ちゃんと、けじめはつけてきた」
「……うん」
「話したいこと、沢山あるんだ。聞いてくれる?」
怖い。未だに彼女に嫌われてしまうのが、愛想を尽かされてしまうのがとてつもなく怖い。もしかしたらとっくに呆れられているのかもしれない。
でも、もう、それでいい。また一からやり直すまでだ。
何度押し返されても、俺はこの気持ちを、永遠に伝え続けるんだろう。
「……手、繋いでもいい?」
小さく頷いた彼女の手を、そっと握る。触れた体温に、泣きそうになった。
俺はずっと、この温度を待っていた。もうずっと。
陳腐な熱じゃない。表面的な触れ合いでもない。心の内側から触れ合うような優しい愛情が、こんなに満たされた気持ちになるのを、教えてくれたのは羊ちゃんだった。
繋いだ手に、少しだけ力をこめる。
離さない。そんな独りよがりよりも、離したくない、と。穏やかな願望だけが胸中に広がった。