能ある狼は牙を隠す
彼の言う「けじめ」とは、そういうことだったらしい。
私への気持ちの清算でなかったことに安堵して、肩の力が抜けた。
「何も言わなくて、言葉足りなくてごめん。不安にさせてごめん。もう不安にさせないって言ったのに……約束破って、ごめん」
彼は許しを請うていなかった。
ただただ私への謝罪が胸を突いて、こちらまで苦しくなりそうな声色。
「幻滅して当然だと思う。嫌ならいま俺を振ってもいい。殴ってもいい。それで羊ちゃんの気が済むなら、何だってしていいから」
でも、と彼が唇を噛む。
「俺……俺、羊ちゃんに振られても、嫌いって言われても、もう無理なんだ……羊ちゃんのこと、諦められない」
目の前の瞳が揺れる。きらきらと光が入り組んで、そこから涙が一滴、零れ落ちた。
「ごめん……散々傷つけておいて、今更かもしれないけど……俺、」
俺、死ぬほど羊ちゃんが好き。
震える呼吸が紡いだ彼の心。きつく握りしめられた拳の上、雨のように降り注ぐ彼の涙が濡らしていく。
「羊ちゃんが、好きなんだ」
真っ直ぐ、真っ直ぐ伝えられた言葉が、何よりも綺麗で胸に染みた。
全身で抱え込んだ愛が私を溶かしていく。
「玄くん」