能ある狼は牙を隠す
彼の細い指が、箱から金色の輪を掬い出した。
薄暗い中でも十分に光り輝くそれを、彼がそっと、私の薬指にくぐらせる。
「……良かった。ぴったり、で」
涙で濡れた頬を緩めて、彼が息を吐いた。
そのまま私の左手を包み込むように握って、玄くんは「嬉しい」と呟く。
「やっと……やっと、ここにはめれた……」
噛み締めるようにそう言った彼の唇が、手の甲に落ちた。
「羊ちゃん」
熱っぽい瞳に捕まる。逸らせない。逸らしたく、ない。
「――愛してる」
瞬間、胸の奥が苦しくなって、気持ちが溢れ出た。
全身が燃え滾るように熱い。視界がぼやけてきたから、右手で懸命に目尻を拭った。
「わた、しもっ、」
「……うん」
「私も、愛してます……!」
ああもう、やっぱりずるい。こんなに大切な言葉、しっかり言いたかったのに。
断片的に喋るのが精一杯。今度は私の涙腺が壊れてしまった。
「玄くっ、好き、」
「うん……俺も好き」
「大好き……!」
「俺も、羊ちゃんが大好き」
とめどなく溢れ出すこの想いを、どうやって全部伝えよう。
今ならきっと、「死にそう」と言った彼の気持ちが分かる気がするんだ。