能ある狼は牙を隠す
私の手に保冷剤を握らせた津山くんが、ゆっくりと椅子にもたれかかる。
狼谷くんはその様子を見るのもそこそこに、中へ入ってきた。
「何した?」
津山くん宛の質問だった。
狼谷くんの目は教室での穏やかなものではなくて、あの時の物騒なものに変わっている。
「こわ。何もしてないって……手当てして、ちょっと仲良く話してただけ!」
「羊ちゃん」
津山くんが言い終わるや否や、狼谷くんがこちらに視線を寄越した。
「ほんと? 何もされてない?」
その目で問い詰められると、私はイエスとしか言えなくなる。
私が頷いたのを確認して、狼谷くんはようやく眼光という名のナイフをしまった。
「自分だって女の子とイチャイチャしてたのに、よく言う……」
「岬は手が早いから」
「まーじで玄には言われたくない、それ」
不穏な会話が繰り広げられるのを聞き流していると、狼谷くんが珍しく不機嫌そうに述べる。
「だって、さっきも手ぇ繋いでたでしょ」
「え? いやまあ、繋いだ、けど……」
「ほら」
「手だよ!? 手だけで!?」
散々やることやってるくせに、何言ってんの!?
津山くんがそう言い返すと、狼谷くんは目を細めた。
「……羊ちゃんは、別」