能ある狼は牙を隠す


適当な空き教室に入って、白さんを座らせる。
その向かいに自分も腰を下ろしてから、俺は煩悩を振り払うように口角を上げた。


「白さん、ティッシュ替えようか」


そう提案したのは、何もふざけていたわけではない。
事実、彼女の鼻に入り込んでいるティッシュは先の方まで赤く染まっていた。

ただ、自分の中に燻る甘ったるいものを捨てたくて、わざと彼女の鼻に手を伸ばした。


「いやいやいや自分でやるから大丈夫だよ!?」

「俺、保健委員だから安心して!」

「そういう問題じゃなくて……!」


本気で慌てる白さんに、ぶは、と吹き出してしまう。


「や、ごめ、冗談……さすがに自分でやって?」

「い、言われなくてもやりますッ!」


頬を膨らませ、自身のジャージのポケットからティッシュを取り出す彼女。
間抜けなティッシュの鼻栓と相まって、非常に愉快なことになっている。

そういう仕草をしたら普通、可愛いもんなんじゃないの? 何でブサイクになるの?

一体、どうして自分はこんな色気もない女の子に欲情していたのか。
ちゃんちゃらおかしくなってしまって、散々笑い倒した。


「鼻血って……高校生にもなってティッシュ鼻につっこんでるって……」

「津山くん!? 怒るよ!?」

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