能ある狼は牙を隠す
突然距離を詰めた俺に、彼女は目を瞬かせた。
「うん。ちょっと、冷やした方がいいかなあと思って」
「でも、さっき自分でやってって……」
「あはは。それはそれ、これはこれ」
彼女に手を伸ばして、さっきよりも近くで目が合う。
白くて滑らかそうな肌だ。頬はほんのりとピンク色で、小さい唇が愛らしい。
特別美人というわけでも、可愛いというわけでもない。自分でも、なぜあそこまで惹き込まれたのか分からなかった。
「白さんさ」
「うん?」
「玄と友達って、前に言ってたよね」
彼女が静かに頷く。
横髪がふわりと揺れて、香るはずもない匂いがしそうだった。
白さんは髪を下の方で二つに括っていて、その毛先を根元で止めている。ヒツジヘア、というらしい。
彼女の下の名前が「羊」であるのとかけて、クラスのみんなは密かに「ヒツジちゃん」と呼んでいたりする。
「あんまり玄の言うこと鵜呑みにしない方がいいよ。ほら、白さん真面目だから」