能ある狼は牙を隠す
本当にタチが悪い。
あんなに見せつけておいて、いざ白さんがいなくなると全力で追いかけてくるって。
「だって、さっきも手ぇ繋いでたでしょ」
「え? いやまあ、繋いだ、けど……」
「ほら」
「手だよ!? 手だけで!?」
散々やることやってるくせに、何言ってんの!?
白さんの前なのに、つい口が滑ってそう返してしまう。
玄は不服そうな表情から一変、穏やかな目を白さんに向けた。
「……羊ちゃんは、別」
少し既視感を覚えて、そういえばと記憶を辿る。
『岬、この子はだめ』
以前にも、玄にそうやって釘を刺されたことがあった。
その時は友達と言い切っていたが、俺はそんな気がしなかったのだ。
玄は俺の横を通り過ぎると、白さんの前で立ち止まる。
そして彼女の手を取って、半ば強引に立ち上がらせた。
「か、狼谷くん?」
案の定、白さんは戸惑っている。
「……こっち、来て」
玄は俺には目もくれず、そのまま彼女を連れ出してしまった。
急に静かになった教室に、一人取り残される。
友達だとか、そういう対象じゃないとか、散々言ってたけどさ。
「……いや、あんなの完全に嫉妬でしょ」
だって彼が迷わず掴んだのは、俺が握った彼女の「右手」だったんだから。