能ある狼は牙を隠す
「じゃあ津山、頭から英文読んでみろ」
「岬〜起きろ! 言われてんぞ〜!」
先生の指名に、津山くんの近くの席にいる男子が騒がしくなった。
「えっ、何?」
「何じゃない。津山、英文ここから読め」
「ええ〜何で俺〜? 寝てたから分かんないんだけど」
「寝てるからだ! ちゃんと聞いてろ!」
「見逃してよセンセ〜!」
どっ、と教室中に笑い声が充満する。
津山くんは口を尖らせて、渋々といった様子で教科書を読み始めた。
変わったこと。それは津山くんがよく話しかけてくるようになったことだ。
彼にはみっともないところを見られたけれど、結果的に仲良くなれたみたいで。
カナちゃんとあかりちゃんにも挨拶をするようになったから、二人ともちょっと驚いていた。
津山くんって本当にすごいんだと思う。
彼が私たちに構うようになってから、今まであまり関わっていなかった人とも少しずつ話すようになった。
そして、私が一方的に困っているのは――
「おい狼谷、お前も寝るな。続きから読め」