能ある狼は牙を隠す



「ああ、白。狼谷に英語教えてもらえばいいんじゃないか」


先生にそう言われたのは、委員会が終わった後のことだった。

私の隣には狼谷くんもいる。
いつも通り職員室に向かおうとしたところで、彼が「一緒に行く」と着いてきたのだ。


「……え?」

「こないだの小テスト、あんまり良くなかっただろ。その前のも。英語苦手なのか?」


単刀直入に聞いてくる先生に、私は「ああはい、まあ……」と曖昧に頷く。
正直、その前の発言が気になり過ぎてそれどころじゃない。


「狼谷は毎回点数いいからな。委員会で一緒だし、お前ら仲良いからちょうどいいんじゃないかと思って」

「え、と……」


先生の目には私たちが「仲良い」と映っているらしい。
色々つっこみたいところはあるけれど、ひとまず落ち着こう。

狼谷くん、英語できる人なんだ……。
意外、と思ってしまったのは普段の彼の素行ゆえだ。遅刻欠席は勿論、授業態度も決していいとは言えない。


「俺は構いませんけど」

「だってよ白。良かったな」


気を付けて帰れよー、と話を締めた先生に、私は立ち尽くしてしまう。


「羊ちゃん、行こう」

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