能ある狼は牙を隠す
ね、と念を押されて、私は緩慢に頷く。
「俺のこと見てて。もう目、逸らしちゃだめだよ?」
「え、あ、う……」
「羊ちゃんは優しいから、約束破ったりしないよね?」
さっきからぐさぐさと胸が痛い。
何だか狼谷くんに対して悪いことをしているような、そんな気がしてきた。
「う、うん……ごめんね……」
「いいよ。だって羊ちゃんが裏切るわけないから」
そう言うと、彼は穏やかな笑顔に戻って小指を立てた。
「指切りしとこっか」
促されるまま自分の小指を差し出してから、はて、と疑問が頭をもたげる。
私これ、何の約束してるんだっけ?
「指切りげんまん、嘘ついたら」
と、そこで私の目を覗き込んだ狼谷くんは、
「針千本のーます」
「へ、」
「指切った」
なに今のなに今のなに今の!?
うっそりと凶悪な笑みを浮かべて、一際低い声で。
真正面から合った瞳と強く引かれた小指に、背筋が震えた。
――まるで本当に、針を飲まされそうな。
「羊ちゃん、本当に英語教えなくていいの?」
恐ろしい表情をしまって、彼はなんてことないように聞いてくる。
だけど私には分かった。
絶対にノーと言わせない、という強い思いが滲み出ていることが。
「……お願いします……」
完全降伏した私を、狼谷くんは満足そうに眺めて笑った。