能ある狼は牙を隠す
苦学力行
「羊、帰ろ〜」
いつものように声を掛けてくるカナちゃん。
私は荷物をまとめながら、「ごめん」と軽く手を合わせた。
「今日ちょっと用事あって……先に帰ってていいよ」
「ちょっとなら全然待つよ?」
「ううん、結構かかりそうだから。ごめんね」
再度謝った私に、カナちゃんは残念そうに肩をすくめる。
「そっかあ。じゃあまた明日ね」
「うん、ばいばい」
少し申し訳ない気持ちになりつつも、手を振ってへらりと笑った。
今日は委員会もないし、先生に雑用を任されたわけでもない。
狼谷くんに英語を見てもらう日なのだ。
『ああ、白。狼谷に英語教えてもらえばいいんじゃないか』
担任の森先生があんなことを言うから、本当に彼に教えを乞う形になってしまった。
狼谷くんも狼谷くんだ。まさか二つ返事で了承するなんて。
こんなの八つ当たりなんだけどなあ。
そう思いながらも、やはり誰かのせいにしないと平常心を保てない。
「羊ちゃん」