能ある狼は牙を隠す
なるほど、と頷きながら英文を訳していく。
間違えた問題を一通り解き直して、それから教科書の英文に目を通した。
「……すごい、何かいつもよりすらすら読める……」
「もっと言うと、脳内で日本語に変換する作業抜いて、英語のままで内容分かるようになれば速読できるよ」
淡々と説明する狼谷くんに、私は心の底から感動した。
さっきまで英文を読むのが苦痛だったのに、今は少しだけ楽しいかもしれない。
「狼谷くん、すごい……何者……?」
先生の解説よりも百倍分かりやすい。
というか、基礎的な部分を根底から覆してくれたような感じがする。
「わ〜……ほんとに魔法みたいだよ、やっぱり狼谷くん魔法使いなのかなあ……」
「やっぱりって何」
はは、と彼が肩を揺らした。
久しぶりに無防備な笑顔を見て、心が安らぐ。
「羊ちゃん真面目だから、頑張れば絶対伸びるよ。苦手な教科そのままにしとくのもったいない」
英語は大丈夫そうだね、と付け足して、狼谷くんは頬杖をついた。
「あと不安なのある?」
「数学かな……」