能ある狼は牙を隠す
職員室を出たところで、また女の子が狼谷くんを呼び止めた。
さっきの子とはまた違う。でも雰囲気は輝いているし、彼に好意を持っているのも分かる。
「委員会終わった? もう帰れる?」
「うん。ごめん、お待たせ」
これがカップルの会話か、と仲睦まじい二人を眺めていた私に、あの視線が再び突き刺さった。
「玄。この子、誰?」
この女の子も例外ではない。
狼谷くんの腕に抱き着いて、私を睨んでいる。
「あっ……私、ただのクラスメートなので! お付き合いしている人の邪魔をする気はないので!」
高速で手を振りながら意思表示をすると、女の子は怪訝そうな表情で首を捻った。
その隣で狼谷くんが小さく吹き出す。
「白さん、だから『お友達』だって」
「えっ、また!?」
罪深いよ狼谷くん!
そんな彼女みたいな扱い受けたら、みんな友達だと思わないよ!
「ねえ玄、早くー。最近全然相手してくれないんだもん、溜まってるんだからね」
「こーら。女の子がそんなこと言わないの」
女の子の唇に人差し指を当てる彼の仕草が妙に色っぽくて、息を呑んだ。
そこで私は思い出す。
狼谷くんは、確か女遊びが激しいと噂になっていたような――。
「じゃあね、白さん」
女の子の腰に手を回し、狼谷くんは歩き出す。
連れ立って遠のいていく二人は、私にはカップルにしか見えなかった。