能ある狼は牙を隠す


職員室を出たところで、また女の子が狼谷くんを呼び止めた。
さっきの子とはまた違う。でも雰囲気は輝いているし、彼に好意を持っているのも分かる。


「委員会終わった? もう帰れる?」

「うん。ごめん、お待たせ」


これがカップルの会話か、と仲睦まじい二人を眺めていた私に、あの視線が再び突き刺さった。


「玄。この子、誰?」


この女の子も例外ではない。
狼谷くんの腕に抱き着いて、私を睨んでいる。


「あっ……私、ただのクラスメートなので! お付き合いしている人の邪魔をする気はないので!」


高速で手を振りながら意思表示をすると、女の子は怪訝そうな表情で首を捻った。
その隣で狼谷くんが小さく吹き出す。


「白さん、だから『お友達』だって」

「えっ、また!?」


罪深いよ狼谷くん!
そんな彼女みたいな扱い受けたら、みんな友達だと思わないよ!


「ねえ玄、早くー。最近全然相手してくれないんだもん、溜まってるんだからね」

「こーら。女の子がそんなこと言わないの」


女の子の唇に人差し指を当てる彼の仕草が妙に色っぽくて、息を呑んだ。

そこで私は思い出す。
狼谷くんは、確か女遊びが激しいと噂になっていたような――。


「じゃあね、白さん」


女の子の腰に手を回し、狼谷くんは歩き出す。
連れ立って遠のいていく二人は、私にはカップルにしか見えなかった。

< 9 / 597 >

この作品をシェア

pagetop