能ある狼は牙を隠す
聞かれるまま答えてしまったけれど、本来英語を教えてもらうっていうことだったはずで。
「じゃあ数学やろっか」
「うう……申し訳ないです……」
さっきから何となく感じてはいた。
狼谷くんは恐らく、英語に限らず成績が良いに違いない。説明の仕方とか、話し方とか、頭のいい人のそれだった。
「えっと、この問題がずっと答え合わなくて」
「ちょっと待ってね」
狼谷くんは自分のノートを取り出すとぱらぱらと捲って、机に開いたまま置いた。
それを視界に入れて、私は思わず目を見開く。
「狼谷くんのノート、綺麗……」
女子のノートならまだしも、男子でこんなに洗練されたノートを作る人は珍しい。
あまりにも意外で、凝視してしまった。
「そうかな。普通だよ」
「いやいや、頭いい人のノートって感じするよ!」
なんてこった。狼谷くんがこんなにハイスペックだったなんて。
今まで不真面目だとか散々思っていたのが本当にいたたまれない。
「ああ……ここだね。プラスがマイナスになってる」
「ほんとだ! 凡ミスだったかー……」