能ある狼は牙を隠す
何題かこなした後、狼谷くんが答え合わせをしてくれた。
「うん、全部合ってる」
「良かった……」
ふう、と息を吐いて椅子にもたれかかる。
狼谷くんも軽く伸びをして、瞼を閉じていた。
それをぼんやりと眺めながら、私は口を開く。
「狼谷くん」
「ん?」
「すっごい失礼なこと言ってもいい?」
私の言葉に彼はそっと目を開けて、不思議そうにこちらを窺っていた。
「私ね。これまで狼谷くんのこと、怖い人だなあって思ってた。不真面目で、トラブルメーカーで、近寄らない方がいい人だって」
今も若干、一ミリくらい思ってるかもだけど。
まあそれはこの際置いておいて、続けることにする。
「でも全然そんなことなかったや。優しくて、几帳面で、繊細で、普通の人だったんだなって。ううん、普通ってよりも、いい人だったんだなって」
面倒みがいいというか、多分困っている人を見たら放っておけないタイプなんじゃないかと思う。
私のことも結局手伝ってくれたり、気遣ってくれたり、そういうことが多々あった。
「だから、ごめんね。最初の方とか、狼谷くんに『苦手でしょ?』って聞かれて、本当は苦手だったのに嘘ついちゃった」