能ある狼は牙を隠す
そう述べると、彼は「もう関係ないじゃん」と愉快そうに声を震わせる。
「と、とにかくね。狼谷くんは悪い人じゃないよ。いい人なの」
いや、これもおかしい。どうして本人の前で本人のことをプレゼンしてるんだろうか。
ここまで来ると言い訳じみてきて、何だかなあと首を捻った。
「ほんと、羊ちゃんさ」
今の今まで笑っていた狼谷くんは、突然俯いて頭を押さえる。
「……たまんなくなるから、やめて」
何だか彼の機嫌を損ねてしまったらしい。
浅い理由をつらつらと挙げ続けたのがやっぱりよくなかったんだろうか。
「ご、ごめんね……」
「いいよ」
お許しをもらってほっと胸を撫で下ろす。
「俺、まだまだ自分のこといい人だって思えないから、俺のいいところ見つけたらまた教えて?」
「分かった……!」
重要な役割を任されてしまった! 狼谷くんの自己肯定感を高めるためにも、どうにか貢献しないと!
拳を握り締めて決意に燃える。狼谷くんはそんな私を横目に、
「ほんと、たまんないな……」
と、再び憂いを帯びた声色でそう零した。