能ある狼は牙を隠す
はっきりとした物言いに、少したじろぐ。
流れる空気が不穏になったのを察したのか、坂井くんは「あーごめん、違う」と難しい顔をした。
「なんていうのかな。狼谷には狼谷のテリトリーがあるっていうか……白さんみたいに真面目な子がわざわざ関与しなくてもいいんじゃないかなーって」
そこまで言われて、私はようやく彼の意図を理解する。
たぶん坂井くんは私のことを心配してくれているんだ。
彼は委員長だし、クラスのみんなのことを見守るお父さん的な、そんなポジションでもある。
「白さんが狼谷に脅されてるんじゃないかとか、いいように使われてるんじゃないかとか、そういう風に思ってる人もクラスにいるみたいだから」
「そんなこと……!」
「いや、何もないならいいんだ。ごめん。余計な心配だったね」
眉尻を下げて弱々しく笑った坂井くんに、私は首を振る。
彼は視線を逸らして頭を掻くと、ゆっくりドアの方へ歩き始めた。
「ほら、文化委員もじゃんけんで決めたわけだし……免れた人は安心してるけど、白さんのこと心配してもいると思うんだよね」