恋と、キスと、煙草の香り。
「遅くなっちゃったわね」
私たちは街灯のともる夜道を並んで歩く。
「ごめんね環。カフェで長く話しすぎたね。環のお父さんによろしく言っておいてね」
「大丈夫よ、颯さんと一緒だって言ってあるもの。だいたい私が話しこみすぎただけなんだから、颯さんは悪くないわ」
「環が楽しそうに話すから、僕もつい夢中になっちゃったよ」
颯さんは絶対私を悪者にしない。
今日だって私がほとんど一方的に話していた。
今日だけじゃない。
普段から颯さんは私の話を笑って聞いてくれる。
常に聞き役。
嫌な顔ひとつせず。
「颯さんだって、私の話なんて遮って話してもいいんだからね。ほら、副社長やってたら不満の1つや2つあるでしょう?きついこと言われたりとか、怒られたりとか」
「僕はまだまだ未熟だから、怒られて当たり前だよ。仕事は好きだから、しんどい、辛いと思うことはそんなにないかな」
颯さんは若いのに考え方が大人で立派だ。
私の同期なんてすぐにむきになって、言い訳をする子供っぽい男ばかり。
同年代の男は颯さんを是非見習ってほしいわ。
「颯さんは大人ね。私みたいに我が儘なんて言わないもの」
「そんなことないよ。僕だって我が儘言ったりするよ」
「えー本当?颯さんの我が儘なんて聞いたことないわ。もっと我が儘言ってもいいのに」
「本当?じゃあ…」