恋と、キスと、煙草の香り。
「大丈夫、ですか?」

私は彼にそう声をかけ、手を伸ばす。

「…なんで助けたんだよ」

彼はぶっきらぼうにそう言って、私の手を振り払い自ら起き上がる。

「この前、私のことを助けてくれたから」

彼は立ちあがり、口から流れる血を手で拭う。

「巻き込まれる可能性を考えなかったのかよ」

「本当ね。全く考えてなかったわ」

そう言って私は笑う。

「馬鹿な女」

普通だったらそんなことを言われたらムッとする。
でも彼に言われたら、全然嫌な気持ちにならない。
不思議。

「お前、名前は?」

何事にも無関心そうな彼にそんなことを聞かれると思わず、私は少し驚きつつも答える。

「たまき…有野環よ」

「俺は”あらた”。新しいって書いて”新”」

あらた…

「環、お前変わったやつだな」

彼の声で私の名前を呼ばれた瞬間、私は今までに感じたことのない感情に支配された。

あれ、何だろうこの気持ちは。
右手で心臓をぐっとおさえる。
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