恋と、キスと、煙草の香り。
「この借りは必ず返す」

「この前私を助けてくれたんだから、お互い様でしょう?」

「女を守るのは男の役目だ。女に助けられるなんて性に合わない」

見た目に反して、武士みたいなことを言うのね。
私は彼のギャップについ笑ってしまう。

「何笑ってるんだよ」

「ううん、何でもないわ」

彼が唇の横を触ると顔を歪める。
切り傷になっていた。

「私、絆創膏持ってるわ」

鞄の中からポーチをとり出し、絆創膏を1枚取り出す。

「ただのその場しのぎの応急措置だけれど」

私は彼の唇の横に絆創膏を丁寧に貼りつける。
まるで彼がやんちゃな小学生のように見える。
小学生のとき、こんな男子いたなあ。

それと相反して、つんと香る煙草の香り。
私のスーツにも移ってしまいそうなほどに。

「よく笑うやつだな」

そう言うと彼の口角が上がったようにみえた。
わかりづらかったが、彼の表情が和らぐ。

「はじめて笑った」

私がそう言うと、はっとしたような反応をする。

「…そんなわけねえだろ」

そう言って彼は顔を逸らす。
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