恋と、キスと、煙草の香り。
「おはよう、環」

「おはよう」

私は車の助手席に乗り込む。

「今日本当は朝から会議があったんだけれど、延期になってね。だから環に電話したんだけど、急かしちゃった?」

颯さんはゆっくりと手を伸ばしてきて、私の髪に触れる。

「ううん、そんなことないわ。待たせてごめんなさい」

「いいんだよ。やっぱり急かしちゃったみたいだね。ここ、跳ねてる」

「え、どこ?」

「ここ」

颯さんが私のサイドの髪に触れたかと思うと、手が右頬に触れて唇が塞がる。

「…上手くいった」

唇が離れると、颯さんは火照った表情で笑う。

「びっくり、した」

「環がこの間意地悪言ったから、仕返し」

そう言って颯さんが私の頭を撫でる。

「これから自然にキスできるように、頑張ろうかなって」

颯さんのこういうところ、本当に可愛い。
こんなことされたら、多くの女の子がいちころだわ。

「もうこんな時間か、遅刻しちゃうね。行こっか」

「ええ」

いまのキスで、さっきまで考えていた昨日のことすべてが颯さんのことに塗り替えられる。

やっぱり、来週の水曜日は断ろう。
私はその瞬間、そう決めた。
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