恋と、キスと、煙草の香り。
「悪い、待たせた」

ヘルメットを脱ぎ、彼は私に近寄ってくる。

「これ、お前のぶん」

そう言ってもうひとつのヘルメットを私に手渡す。

「被って後ろに乗れ」

「え!?」

いきなりのことに私は戸惑う。
これからどこかに行くの?

「いや、私は…」

「何くずぐずしてるんだよ、行くぞ」

彼は私の右腕をとり、強引に引っ張っていく。

「ちょっ…どこいくの?」

「さあな」

強引な彼に引きずられながら、私はバイクに乗せられる。

「しっかりつかまっとけよ」

そう言ってすぐ、バイクは発進する。
落ちそうになり、彼の身体にしがみつく。

颯さんとは違う、男の人の背中。
つんとする煙草の香り。

結局抵抗できないまま、私たちは夜の道を走り抜けていった。
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