恋と、キスと、煙草の香り。
私の目の前に広がっていたのは、とても美しい夜景だった。
夜の闇に灯される街の灯りがまるで宝石が輝くかのようで、驚きと感動で私はしばらく言葉を失う。

「綺麗…」

私は瞬きをすることすら惜しいその景色の前に立ち尽くす。
足の痛みなんてすっかりと忘れてしまうほどに、私は目を奪われる。

「一人になりたいときによく来るんだ。夜は誰もいないからな」

彼はポケットからライターと煙草を取りだし火をつける。

風に揺れる髪。
遠くの景色を見つめる眼差し。
私は煙草をふかす彼の姿に見とれる。

「俺にはこういうのしか思い付かなくてな。女はこういうの好きだろ?」

そう言って彼は笑う。
夜景を背にする彼と目があって、私の心拍数がはやくなっていくのがわかる。

「ありがとう…新」

彼の名前を初めて呼んで、恥ずかしさで自分の頬が赤く染まっていくのがわかった。
暗いせいで彼には見えないだろう。
あたりが暗くてよかった。

「……」

私は再び夜の景色に目を向ける。
こんな近くで、こんな綺麗な夜景を見れるなんて思わなかったな。

”環”

風の音でよく聞こえなかったけれど、そう呼ばれた気がして私は振り返る。

「うん…?」
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